水木しげる/上田秋成
河出文庫(1985)
水木しげるが上田秋成の雨月物語から、
『吉備津の釜』『夢応の鯉魚』『蛇性の婬』の三編を選んで描いた絵本。
『吉備津の釜』
ダメ男の正太郎が妻の磯良をほっぽり出して妾と逐電したが、逃げた先の都でとんでもない目に合う話。
挿絵では嫉妬に狂う磯良(いそら)の表情を、生前は「半眼」、化けて出る時は「開眼」の対比で描いていて、どちらも怖い。文も絵も共に最後の惨劇を直接的には書かないのが風情を生んでいる。
『夢応の鯉魚』
三井寺の興義(こうぎ)という絵のうまい僧侶が死の床から蘇り、琵琶湖の水神にお願いして鯉になった体験談を語るという話。
水神が大魚に乗ってやってくる一枚に描かれている水生生物たちが可愛い。人物絵の描写の仕方がマンガ絵、写実絵、日本画風とページによって多様なのに比べて、魚――特に主役の鯉(興義)は写実で統一されている。波や水底の描写も精緻。
『蛇性の婬』
優男の豊雄が美女の真女児(まなご)に傘を貸したらお礼に家に招かれて、夫婦の契りを結んだら立派な宝剣を手渡され、それが実は盗品だったと分かり、世間から身を隠す途上で出会った老人に、真女児は蛇が年を経た祟り神だと正体を聞かされ――なかなか退治されるまで一筋縄ではいかない蛇女の話。
真女児(すごい名前)の黒目がちの瞳がキラキラしててぶりっ子可愛い。豊雄の肩を掴んで問い詰める一枚ですらキラキラしていて、ひと目で狂気が伝わってくる。そのキラキラした瞳を怯えた三白眼で見つめる豊雄のリアクションも完璧。
水木しげるってこんなに絵が上手いんだなぁと今更ながらに感心した。