とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢
ジョイス・キャロル・オーツ
河出書房新社
著者が自選した短篇集。
表題作の「とうもろこしの乙女、ある愛の物語」が一番よかった。
トウモロコシの髭のような美しい髪をした女の子が、チャットでマスター・オブ・アイズから「暗黒のジュード」なる二つ名を賜った女の子とその仲間たちに拉致監禁される。警察はミスリードに引っかかって関係のないパソコン相談員の非常勤講師ザルマンを取り調べるばかり。マスコミにバッシングされ、悲嘆し自虐する母親の元にジュードが現れて――
のっけから「ゲーム感覚でなんでもやるネット世代の子ども」全開の、偏見テンプレートなラリパッパ心情描写から入るので、つまらないんだろうなぁと落胆したが、母親の心情描写の方はよかったので持ち直した。
ザルマンが無実の罪で取り調べられるくだりは軽く流しすぎていて不条理さが伝わってこない。メインじゃないところは書き過ぎないようにしているのだろうか。
ジュードちゃんたちの行動は、特に理由もない悪意と行き当たりばったりさ、飽きと暴力への嫌悪、承認への飢えなど子供っぽい心情がミックスされていてよかったが、怖くはない。トウモロコシ少女の家出を仄めかされて泣いちゃう母親も含めて、子どもの幼稚な企みや悪意があまりにも通用しすぎていて、「間抜け」な印象が拭えない。
例えば母親が「あの子が私を選ばないはずがないでしょ!」ぐらいの強いセリフでビンタ一発はたいてみたらだいぶ違ったろう。強い承認を得ているトウモロコシ少女に、名前を覚えてもらって喜ぶほど寂しがりなジュードちゃんが、豹変してじっくりいたぶる――というようなエグい展開になっておもしろかったろう。そもそも暴力描写が物足りないし。
でも母親は泣いちゃって、ジュードちゃんのテンションも上がらない。死のう死のう、めんどくさいとなっていく。
何か、ぐっとくるストーリー展開や描写やリアリティを捨ててでも、文章のリズムや速度に特化したような読み味なのである。「途切れない」。それが何処か子どもの妄想がそのまま形になったような、「一つの邪魔も入らずにやりたいこと全部できたけど、でもそれがなんだったんだろう」というような、追憶を生んでいる。
他の短編にもメンタルの弱い人がたくさん出てくるので、そういう趣味がある人は読んでみるのも一興だろう。
2013年04月02日
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