2017年11月20日

帝都衛星軌道(島田荘司)

帝都衛星軌道
島田荘司
講談社文庫
初出(2008年8月講談社ノベルス)



”一人息子が誘拐された。身代金の額はわずか15万円。受け渡しの場所として山手線を指定され、警察側は完璧な包囲網を敷くが……。前後編の間に、都会の闇で蠢(うごめ)く人びとを活写した「ジャングルの虫たち」を挟む異色の犯罪小説(クライム・ノベル)。大胆なトリック、息をつかせぬ展開、繊細な人間描写が織りなす魅力に満ちた傑作。”

 表題作の前編と後編の間に「ジャングルの虫たち」という別の短編が挿入されている。
 前編の主要な謎は、
 「犯人はどこからトランシ―ヴァーで母親(受け渡し役)と連絡を取っているのか」
 「身代金が異様に少額なのは何故か」
 「母親は何故事件後父親に一方的に別れを告げ、失踪したのか」という辺り。

 これらの謎を「ジャングルの虫たち」で補填しながら後半に解いていく、のかと思いきや、「ジャングルの虫たち」は本編に関係がない。いわば「長大なフレーバー・テキスト」である。「緋色の研究」のように、それが動機の説明になっているというわけでもない。
 まったく関係のない二つの物語をパッケージにして売るのは森博嗣もなんかの一冊でやってたけど、本作の場合には「意表を突く」だけでなく他の意味合いも感じ取れる。老ホームレスの視点で語られるチンピラと詐欺師の回想録が、ただの事件の舞台でありトリックの題材だった「東京」に人情味を加えている。その読後感が「人情噺としての」後編に効いてくるのだ。
 おそらく前編と後編を普通に続けて読んでも、後年「妻の知らない過去」が「ふとしたきっかけ」で分かり、そこから「犯人がすんなり自供」するというミステリー的にはさっぱりおもしろくない展開に首をひねることになるのではないだろうか。「証拠の隠し場所」にさえ奇想があればそれでも話になりえたろうが、それもない。だから一度この話は、ミステリーという文脈を切断しなければならない。例えば、まったく別の物語を挿入することによって。
 
 だがこの構成は筋書の欠点を補うだけでなく、また別の効果も生んでいる。話の核にもなっている東京の「地上の交通網」と「地下の交通網」、まるで性質の違う二つの交通網によって東京が機能しているように、この本もまたそうなのだ。
 前編と後編が衛星軌道を舞台にした「地上」の小説。
 「ジャングルの虫たち」が、ろくでなしどもが東京の地べたを這いずり回る「地下」の小説。

 両方揃って、これぞ「東京物語」というわけだ。
 


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ラベル:島田荘司
posted by 雉やす at 20:49| Comment(0) | 書評(ミステリー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月24日

探偵ガリレオ(東野圭吾)

探偵ガリレオ
東野圭吾
文春文庫
初出:1996年11月〜98年3月

どんな話だったかそろそろ忘れたので読み返してみた。
まとまってて、読みやすくて、おもしろい。理由は解説で佐野史郎も言ってるように視点変更の巧みさ。仮に全部刑事視点だったとしたらもっと余計に文章量がかかるところを、割り過ぎない程度に犯人視点で割って切りよくまとめている。大ネタは湯川せんせによる科学的な解説なので、他の謎を無駄にややこしくする必要はない。「きちんと焦点を絞って話を作る」というのは大事なことだなと改めて思った。

どの話もおもしろいけど「爆ぜる」の海の上で爆死するインパクトがよい。

いわゆる「読者への挑戦状」を出すような、「あらかじめすべての手がかりを読者に提示する」=フェアという倫理観がミステリーというジャンルの中には存在する。ガリレオはもちろんフェアではないし、むしろその倫理観を逆手にとって、「提示していない手がかり(科学知識)そのもの」の新奇さ、おもしろさに着目している。「名探偵の掟」に表れてるようなジャンルへの意識が、逆手に取るような形で本作を生んだのかなと思う。アンフェアにはアンフェアなりのおもしろさがあるよね。
posted by 雉やす at 16:03| Comment(2) | 書評(ミステリー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月11日

殺人方程式―切断された死体の問題―(綾辻行人)

殺人方程式―切断された死体の問題―
綾辻行人
講談社文庫
初出:カッパノベルス(1989年5月)



”新興宗教団体の教主が殺された。儀式のために篭もっていた神殿から姿を消し、頭部と左腕を切断された死体となって発見されたのだ。厳重な監視の目をかいくぐり、いかにして不可能犯罪は行われたのか。二ヵ月前、前教主が遂げた奇怪な死との関連は?真っ向勝負で読者に挑戦する、本格ミステリの会心作。”

 「首切りの理由」という点には力が入っている。
 「トリック」は唐突でもっと導線がほしい。
 「犯人」については「死体移動」の必然性と絡めてるところはよいなと思う。「動機」はアレだけど。
 「探偵役」については刑事と双子でなんやかんやの設定がいるようないらんような感じだったけど、捜査はスムーズに進んでたからまあよい。
 「おもしろみ」に関して。損なってるのは新興宗教についての設定や描写が適当であんまり頭に入って来ない点。「ミスリード」の成分が多すぎてきれいな絵になってない点(「ミスリード潰し」には力入ってない)。あとは正直、このトリックと犯人の組み合わせだと「すっきり爽快」というわけにはいかない。アミノサプリと昆布茶を混ぜたような感じ。まあ、まずいよね。


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posted by 雉やす at 23:44| Comment(0) | 書評(ミステリー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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