2023年06月05日

老警/古野まほろ

老警
古野まほろ
角川書店(2019年11月)



”A県の小学校で起きた前代未聞の無差別大量殺人。犯行後、犯人の男は居合わせた警官から奪った拳銃で自殺する。現役警官である男の父もまた、直後に自死。県警本部は混乱の坩堝【るつぼ】と化した。謎多きこの事件の解明に乗り出したキャリア女警の由香里は、捜査の末、驚きの真実を見つける。ベテラン警察官達の矜持と保身、組織の理不尽と世間の無情、引きこもりとその家族の実情――数々の問題提起を孕んだ社会派警察ミステリー。”

序盤の引きこもり統失長男視点から事件発生までの流れが読んでいて乗れる。大抵序盤の読み味に難のあるまほろにしては珍しい。
ジェフリー・ディーヴァーばりに視点を切り替えながら、「老警」のやらかしで最悪の「小学校の運動会無差別襲撃テロ」が防がれないもどかしさを見事にトレースしている。
で、実際に事件が起きた瞬間から、丁寧に積み上げていった社会派サスペンスの読み味が達磨落としされていく。

「統失長男の手際が良すぎる」「これ攻撃力やばない?」という違和感。
「お前ロロノア・ゾロだったの?」というくらい何本も刃物を使いこなしてすんごいアクションムーブをするんだけど。

「ここまで丁寧に社会派サスペンスのノリで書いといていきなりゾロ出す?」というね。
いや間違いなくテンションは上がるよ。ジェフリー・ディーヴァーからのー、ゾロ!だから。ふり幅やばいって。ドキュメンタルなら全員OUTで松本人志が部屋に来るレベル。
これまた初見様バイバイ案件というか、
「あぁ、ジェフリー・ディーヴァー風陰湿ニッポンワナビテロね。はいはい」という読者のコンセンサスまで先生や小学生たちと一緒に切り捨てられるという。タランティーノの映画のようなジャンル切り替えが行われまして。ええ。

もちろんまほろの本に於いて「叙述が変」ということは、当然の仕掛けがあるんですけどね。

で、犯人が自殺して犯人の親も自殺して。
あれ?なんか事件が終わってしまった感があるけど。というところから、由香里ちゃんが頑張って事件の違和感や未回収の伏線をほじくりだしていく。
しっかり伏線を全回収し、いつもの「王手詰め〜それは人を奴隷にすることよ!」の見得を切ってうまいことなっていく。
良くも悪くもいつものまほろな感じで終わるのかなと思ったら。

まさかの最後由香里ちゃんが老警と船に乗るという。
船に乗って「引きこもり問題が放置されている!」という問題提起の社会派な会話で最後を〆ようとするんだけど。

ねぇ、なんで無理やり軌道修正しようとする!?
だってもう「社会派サスペンス」は一回裏切ってるわけじゃん。食い合わせの悪い「叙述が変」をぶつけてひっくり返してるじゃないっすか。
なんでまたひっくり返したおもちゃ箱片付けようとするんですか!
編集ですね!編集が犯人ですねこれ!分かります!空気の読めない若い編集に「いや社会派じゃなかったんすかこの話!打ち合わせと違うじゃないっすか!」って突っ込まれたんすね!

まあ分かるんだけどね種明かしした後に補強したくなるのは。でも蛇足だとは思う。

最後まさかの「編集が犯人」案件が発生したことで「六冊目の四大奇書」くらいの凄まじい奇書に成長してしまった感がある。
船パートの警察のお偉いさんのおじゃる会話とかもう明らかふざけてるやん。悪い編集にねじこまれて自棄になってるんやな。分かるで……。
社会派サスペンスと叙述組み合わせたら……奇書になるんやな。
でもまじで読む価値はあると思うからぜひ読んでみてほしい。まほろこそ現代ミステリのマッド・サイエンティストであり、最前線だ。この戦線に異常はない。
ラベル:古野まほろ
posted by 雉やす at 03:45| Comment(0) | 書評(ミステリー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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