古野まほろ
講談社(2019)
”何度、何度、何度くり返しても彼の死だけが変わらない星夜の学校を襲った悲劇と、くり返す夏の日。命がけの青春を、私達は生きている。運命と戦う高校生達のタイムリープ×本格ミステリ☆☆☆7月7日。部活仲間5人のささやかな七夕祭りを、謎の爆発が襲った。その爆発は、部長を激しく吹き飛ばし殺害してしまう。原因は、未来からきた少女2人。彼女らはタイムマシンをハイジャックした挙げ句、爆発させてしまったのだ。部長の理不尽な死をなかったことにすべく、彼らは協力して過去を書き換えようとする。だが、時を繰り返すたび、なぜか犠牲者は増えていってしまい──遡れるのは計7回、無限に思える選択肢。繰り返す青春の1日は、命がけだ。”
タイムループもの。
基本的には「体ごと」のタイムスリップではなく、「記憶を引き継いだ脳内情報だけ過去に戻れる」というもの。しかし記憶を引き継いで戻ると脳内に「クロノトン」という毒素が溜まって死ぬ。これは「トリクロノトン」という物質を事前に注射することで防げるが、その量に限りがある。その限界から導き出した回数制限が7回ということ。
この辺りの「縛り」を作るための設定が大味。
特に「脳内情報だけをタイムスリップする」はずが「機械&体ごとタイムスリップしてしまった」という最大の謎が処理されないのが、フラストレーションが溜まる。
「今からタイムループものでミステリやります。ルールはこれ!」というルール説明以上のものになっていない序盤の作文とSF要素の半端さ。オリジナル毒設定も単品だといまいち。のちにミステリーの中に組み込まれるからおもしろくはなるけど。硬派なSF読みがまほろ初読で読んだらこの辺で切られちゃうとは思う。それはしょうがない。
ただそこはまほろだから。
ルールの中で穴ついて展開して解決して〜という一連の流れはきちんとおもしろい。
けど、ミステリーだから。
悲しいことに、「キャラクターの心理描写のかなりの部分を隠さなければならない」というのが、「青春SF」とむちゃくちゃ食い合わせが悪い。悪いんだ……。
感情移入できるキャラクターがろくにいない。
「え、こいつ状況次第でこんな突飛な行動するの?」という驚きがいくつも用意されてはいるんだけど、納得感が……。
例えば「なんかこいつ裏で無茶苦茶凶悪なムーヴしてない?」って薄々わかる子がいるんだけど、その子が「実は凶悪でした!」って種明かしされたとしても――。
「なんかこいつ片思いしてない?」ってやつが、「実は片思いしてました!」って種明かしされたとしても――。
「その想いを描写できない」から、「その動機でそこまでやる?」という違和感が目立ってしまう。
真相解明後の「告白」だけでは凶悪ムーヴに見合うだけの感情移入ができない。それは、無理だ。前振りがないんだもの。
(例えばね。古畑任三郎で一番おもしろいところはED前の、古畑に白旗上げた後の犯人の心情の吐露じゃん。「告白」だよね。
でもなんでそこで視聴者がしんみりするかというと、そこまでの流れがあるからでしょう? 犯人の視点で、犯人の気持ちになって、頑張ってトリック考えたけど古畑に追い詰められていって――というきれいな感情移入の流れがあるからじゃないっすか。前振りとして。
「本格」だの「パズラー」だの気取って駄作量産してるミステリー作家は古畑見て倒叙もの書いて思考矯正した方がいいよ。「人間が書けてない」ってのはつまり「動機と行動が見合ってない変な人」を書いてしまっているってことだから。有栖川有栖もインタビューで言ってるでしょう「常識」が一番大事なんだよ。「他のジャンルではできないようなイカれた心理(動機)描写」が書けるのがミステリーの魅力って言ってたのは誰だったかな。殊能将之だっけ。あれも逆説的だけど同じ意味でしょう)。
ただそこはまほろだから。
ここまで食い合わせが悪い素材を取り揃えてもまとめてくる。
SFお約束の「世界設定そのもののどんでん返し」を真犯人の動機と被せて披露するところは非常にポイントが高かった。ここで初めて感情移入が発生した。この話でまともなの真犯人だけなんですよねえ。という気持ちになった。
――もうほんとね、人間関係が終わってるよこの吹奏楽部。各ループごとのフィードバックがグループでできないのは本当によくない。なんで「各自反省」して次のループでスタンドプレイするんだよ。攻殻機動隊かお前らは。
「お前今のループなにしとってん役立たず」ってちゃんと詰められないから悲劇が繰り返されてるだけなんだよなぁ。男女入り混じる部活ってこんなドロドロになるんすね。やですねぇ昼ドラみたいで。
まほろにしては習作(エチュード)だけど、難しい題材に手を出してるからこれはしょうがない。チャレンジ精神。
手堅いミステリーならいくらでも書ける人だからね。
ただ昔からいた「天帝シリーズのSF要素いらなくね?」派はこれを読んだら勢いづくだろうな。俺は好きですよSF要素。
ラベル:古野まほろ

