楳図かずお
▼第1話/ママがこわい▼第2話/まだらの少女▼第3話/へび少女
●あらすじ/明日退院する母親から、北の病棟に“へび女”がいるという噂話を聞かされた弓子。その女には体中にウロコがはえ、口が耳元まで裂けているらしく、恐いもの見たさの弓子がそこに向かうと、病棟には檻に入れられた女性がひとり。見た目は母親にも似た普通の女なのだが、彼女は弓子に「カエルを持ってない?」と問いかけてきて…(第1話)。
ほんとは角川ホラー文庫で読んだけど表紙が怖いからkindle版で。
kindle版だと書かれた順番で載っているみたいだけどホラー文庫だと「へび少女」→「まだらの少女」→「ママがこわい」の順。なんでこの順で文庫に収まってるのかよく分からないんだよな。作中時系列なら「へび→ママ→まだら」の順だし。まだらはママの登場人物引き継いでるから読み味がだいぶ変わってくるだろうに。
という意味でもkindle版で読んだ方がよさげ。
「へび少女」
べた塗りの使い方がよいよね。冒頭の猟師とじいさんの陰影に満ちた濃い顔がもう怖い。
で次のコマではじいさんの顔も体も別人のように真っ白で影がないんだけど、これは光源の関係で「猟師の視点から見たじいさん」なんだよね。
でそれまでの影に満ちた視点がじいさんのものだったことが分かる。
じいさんは「しのばずの沼の主」の怖さが分かっているけど猟師にはまるで分からない。このギャップのある心理状態を、あくまで「光源」を用いて写実的に、隠喩で表現するのがすばらしい。1ページ目からもうすごい。
その後、利平を追いかけてきたうわばみ女が「ぬっ」と変身して襲い掛かるところも「電灯が切れている」から見え過ぎないのがよいね。神様視点じゃなくて誰かの視点で追いかけるのがホラーの基本なんだな。
うわばみ女は「蛇のうろこを食わせた人間を蛇にできる」能力を持っていて、執拗に洋子さんにうろこを食わせてくるのが嫌らしい。へび井戸から這い上がってきた洋子さんをもう一度投げ落とすのはもはやシリアスな笑い。
最後精神病院に流れ着いたのがうわばみ女か洋子さんか分からないところも気が利いている。
「まだらの少女」
ちょっと前にママになりすましていたへび女が、精神病院を抜け出して執拗に弓子を狙ってくる。無理やり弓子のトランクに入って、いとこの京子さんがいる田舎の村まで追ってくる。
今度はへび女も体調が悪くて余裕がないのでやたら直接的に攻撃してくる。も、怒れる村人(ホラーに於いては強キャラ)たちに焼き討ちされて敢えない最期を遂げる。
しかしへび女は「まむし治療の血清」と自分の血をすり替えて京子さんに注射させ、京子さんをへび化させることで弓子を狙い続けるのだった。なにかしらの分身がいれば意識の連続性は保てるらしい。
清子さんの家族ごとへびにしてとうとう弓子を――といういいところでまたも村人たちが集まってくる。この村人たち、とにかく機動力とよそ者への殺意が半端じゃない。やはり日本の田舎の村は暴力装置として優秀すぎる。チンパンジーかなんかの群れと一緒。
最後はなんかめでたしめでたしみたいな雰囲気出してるけど京子さんは散々だよなぁ。
「ママがこわい」
ママが入院している総合病院の北の奥の病棟には「自分をへびだと思い込んでいる女」がいる。
そう聞いた弓子はさっそく病院内を探検することにした。
見つけた牢屋みたいな病室の中にはママにそっくりの美人がいた。美人は弓子からカエルの絵が描かれた教科書を奪い取り、もしゃもしゃとページを咀嚼する。――そうしてカエル食べたさに発狂した美人――へび女は病室を抜け出し、そっくりの見た目をしている弓子のママに成り代わって退院するのだった。
この話のへび女は「カエル大好き」という可愛いよりの個性が追加されているせいか、純粋なホラーというよりはいくらかコミカルな筋立てになっている。
へび女を瓶詰のカエルで池までおびき出すぞ
→出ていったかな?家中の鍵をしめて入れないようにしよう
→実は家の中にいました
→ああ!鍵がかかってて出られない!(内鍵なのに?)
の知能バトル展開とか。
いや分かるんだけどね。昔のドアでなんか鍵が突っかかって開かなくなっちゃうのは分かるんだけどさ。鍵の開け閉めは擬音で済ませてるしドアの描写も簡素だから突っ込みどころではある。
ところで「へび少女」と「まだら」のへび女には「たばこのヤニが嫌い」という設定があって、これを元にしたおまもりが効果を発揮する。
蛇のたばこ嫌いは昔から人口に膾炙している伝承のようだ。
これについては非常によくまとまっているネット記事があった。
「タバコの怪談」はいつから存在するのか 【吉田悠軌の怪談一服】
1700年代の江戸時代から文献で確認できる伝承らしい。
『田能久(たのきゅう)』という落語が「タバコのヤニでうわばみ退治」の典型例だそうで。この記事に載っているあらすじだけでもおもしろそうで、ぜひ聞いてみたいなと思った。