西澤保彦
(集英社文庫:2005)
”タイムスリップした私は、父を救えるか!
23年前の夏、父は殺された。犯人は不明。父が殺される数日前にタイムスリップしてしまった私は、父を救うことができるのか? 親子の愛、姉弟の愛を切なく描く長篇ミステリ。(解説・菅 聡子)”
美人の姉はレズで、一回りくらい下の少女と一緒になるべく家を飛び出したのだが、父親の不審死(浜辺で殺された。引きずられたような跡はあるが足跡はない)をきっかけに実家に戻って不本意な結婚をした。義理の弟(従弟から養子に貰われた)である主人公は若い頃姉が好きだったんだけど姉だしレズだしどうにもならなくて、実家を継ぐこともなく学者になった。
――からのタイムスリップ。父が死ななければ姉は不本意な結婚をすることもなくレズを全うできるのではないかと考えた主人公は過去を変えるべく実家と姉の下宿先に向かう。
途中で犯人は分かるタイプの話なのだが、事が起きる前に解説役のレズ少女(姉の想い人)がほぼほぼ解説してしまうからおもしろみがない。しかしややこしいタイムスリップ設定の話だから、事件そのものは簡潔にしないとまとまらなさそうというのも分かる。叙述トリック風味に「一周目」を混ぜたりすることもやろうと思えばできるはずだし。
レズ少女のキャラ造形はなんかこう都合よすぎるというか、モロに狂言回しって感じがする。別にそんなにレズでもないし。主人公とやるし。
主人公は、同性愛を否定する立場の父に対して、姉への想いを貫くわけでもなく、むしろ姉とシンクロしてレズ少女の誘惑に乗りごっつぁんゴールをかましてしまう40歳。
それってどうなんと思うが姉とシンクロする心情描写がうまいこと行ってるおかげで読んでいる最中にそれほど違和感はない。美少女に誘惑されたらしょうがないんやなって。
逆にここで主人公のキャラがぶれたことによって殺人が回避できたのだろう。
「レズはあかん。子供作って普通に暮らせ」の父 VS 「レズでもええやん。当人たちの幸せを認めたれ」の主人公。
という本来の対立構造が、
「レズはあかん。子供作って普通に暮らせ」の父 VS 「レズでもええやん(なんかレズの間に入ってみたら意外と心地よかったわ)」
という方向にスリップしてしまったことによってなあなあになってしまったのだ。もはやタイムスリップというより性愛スリップである。
レズビアンが男性嫌悪という方向に向かず、姉も弟も誘惑ロリもみんなで助け合って老後を支えていこうというエピローグの読後感も悪くない。が、ここは読者によって好みが分かれるところだろう。
「百合の間に入ってはいけない派」と「百合の間に入りたい派」。後者の人間が読めば違和感なくおもしろく読めるだろう。もちろん私も後者である。
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