2015年06月09日

歪んだ創世記/積木鏡介

歪んだ創世記
積木鏡介
講談社ノベルス(1998)



"全ては何の脈絡も無く唐突に始まった。過去の記憶を全て奪われ、見知らぬ部屋で覚醒した私と女。舞台は絶海の孤島。三人の惨殺死体。生存者は私と女、そして彼女を狙う正体不明の殺人鬼だけ…の筈だったのに。この島では私達が想像もつかない「何か」が起こっていたのだ。蘇る死者、嘲笑う生首、闊歩する異形の物ども。あらゆる因果関係から排除された世界―それを冷たく照覧する超越者の眼光。全ては全能の殺人鬼=「創造主」の膿んだ脳細胞から産まれた、歪んだ天地創造の奇跡だった。そして…「ここはどこなの」女が存在しない口唇で尋ねる。「分からない。でもここにはあいつの邪気がない。あいつの手の届かない世界らしい」存在しない口で私は答えた。「あいつはもう二度と現れないの」彼女の不安気な問いに、私が頷く。女は存在しない男の顔を怪訝そうに覗き込んだ。「結局、あなたは誰だったの」「君は一体、誰だったんだい」私は揶揄うように問い返した。そんな事はもうどうだっていいじゃないか。もう何も彼も終わったのだから。…だが、まだ終わったのではなかった。真犯人はそれを知っている。本当の終焉はこれからなのだ。第6回メフィスト賞受賞作。"

 長ったらしいあらすじもいちおう伏線になっている。
 数年ぶりに再読。初読のときはバカバカしいなと思ったが、今読むとTRPGのリプレイっぽいおもしろさはあるのかなと思った。語彙と描写力はあるので死体が見つかるぐらいまではけっこうおもしろい。「ここで目星」「SAN値減りましたねアイデア振ってください」とかKP目線で読むとよい。
 後半はもう「バカミス」。馬鹿っぽいミステリーと馬鹿っぽいミスをする小説の両義として。読者が犯人うんぬんの記述はそれこそ時系列が逆転しているミスリードだけど(先に書かれてないと読めんわ)、ゲームブックっぽい仕掛けはおもしろいんじゃないかと思う。でも「読み返す(飛ばす)ページ指定してるやつはいったい誰なんだよ!」という謎が残るよね。残んないか。そのまんまか。

 あんま本書と関係ないけど、作者がミスって破綻したミステリーを何人かで集まって筋道が通るように書きなおすうちに、いろいろと登場人物が増えたり手がかりが増えたりして、最終的にものすごくややこしい曼荼羅のようなものが出来上がるまでの過程をゲーム化したらちょっとおもしろいかもなと思った。
 最初にサイコロ振って適当に状況作って、「死体/3」「窓/2」「ドア/1」。
 GMが適当に矛盾している状況を設定。
 「密室殺人だけど死体が発見されたとき窓が開いていた」
 ↑窓開いてたら密室にならねーじゃん
 というツッコミから
 参加者A「窓の外は一面の雪だけど足あとがない」←雪密室に発展。
 参加者B「死体が三つとも内側から窓に打ち付けられていた」←猟奇っぽく発展。
 などと参加者が一つずつアイデアを出し、全員の投票でどちらを採用するか決める。
 「密室殺人だけど死体が発見されたとき窓が開いていた」
 →「死体が三つとも内側から窓に打ち付けられていた」←採用。
 ↑なんでそんなことすんの、というツッコミから、
 参加者A「窓の数は2つなのに死体は3つ。これは犯人が死体になりすまして部屋に潜み、第一発見者があまりの光景に驚いて逃げたあとで部屋を脱出……しようと試みたが、なりすますときにうっかり本当に掌に釘を打ち込んでしまって抜けなくなってそのまま死んだ」
 参加者B「北と西の窓にそれぞれ死体があり、もう一つの死体は窓のそれぞれの死体に頭と足を突っ込まれている。つまり「H」の形状。犯人は3つめの死体を足場にして天井にある隠し扉から逃げた」
 参加者C「そもそもなんで密室にする必要があったんだよ。正解はこう。犯人は被害者たちがまだ生きていると思わせるために窓を開けた。明るいとバレるから夜、光源はそうだな、懐中電灯にしとこうか。窓枠に置いて死体の顔を下から照らす感じ。これなら青白い光で生きてても死んでるように見えるから矛盾はない。被害者たちは心霊研究会のメンバーで、夜に懐中電灯ではっちゃけてもそういうおちゃらけなのかなと流されてしまうような人たち。ところが実際に立たせてみると死後硬直が甘くてくんにゃりしてしまうことが判明。しょうがないから打ち付ける。窓を塞ぐ死体は3つとも女のもので、長い髪を窓枠の上に、手を窓枠に打ち付けることで頭と上半身を固定。結果的に窓がふさがってしまったが結果論。犯人は普通にドアから出た。ドアは……オートロックということで」
 ↑なんで生きていると見せかける必要があるのか、というツッコミから
(以下省略)

 最終的に一本のミステリーとしてまとまったら終わり。……いつまで経っても終わんなそうなゲームだけど。
 バカなミスから始まるゲームだから積木鏡介に敬意を表して「バカミス創世記」というタイトルで。
 一人で暇な時に遊んでよう(^ω^)

posted by 雉やす at 00:39| Comment(0) | 書評(ミステリー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年06月05日

冷えきった街/仁木悦子

冷えきった街
仁木悦子
講談社文庫(1980)



"堅岡清太郎一家は続発する怪事件にまき込まれ恐慌を来していた。長男清嗣は睡眠中にガス栓を抜かれ、次男冬樹は暴漢に襲われ、末娘このみを誘拐するという脅迫状までが舞い込んだ。事件解明の以来を受けた探偵三影潤が謎に挑むが、やがて第一の事件が起こり悲劇の幕があく。呪われた一家を待ち受ける運命は……。"

 三影潤という探偵の嫌味のないキャラクターのおかげか、ドロついた家庭の悲劇にもかかわらず、全体を通して読みやすかった。発端となった三つの事件のうち、清嗣の殺人未遂は堅岡家の謎に深く食い込み、一方で冬樹の襲撃はまったく明後日の方向に進展していくのだが、最終的にはちゃんと繋がってくるのがおもしろい。このみちゃんは最初から最後までほとんど放置で、「まあ知り合いの探偵に護衛させときゃいいや」というスタンス。いったいこの冷たさはなんなんだ、まさかこのみちゃん(六歳)がガス栓を抜いて冬樹(高校生男子)をボコボコにした犯人……? と思ってわくわくしながら読み進めたがもちろんそんなことはなかったぜ。
 一冊を通しての一番の謎は「何故容疑者が限定される家庭内で、しかもリスキーなやり方で殺すのか」というところにあるが、そこの部分の真相にリアリティがあったので読後感がよかった。
 一方で何故犯人を絞り込めたかのロジックの部分は「気付き」のワンポイントと想像力の結びつきでしかなく、全体的に「仮説をきちんと検証する」という部分が弱い。第二の殺人のときなんかは「そこまで想像したんならちゃんと踏み込んで調べろよ」ともどかしくてたまらなくなった。
 とはいえ実際三影は鋭い男だし、後半に渋い独白を利かせてきたりと、ハードボイルド探偵としてはなかなかよい男だと思う。殺人行為や殺人犯に対する認識が妥当で説得力があり、そのおかげで、ラストシーンの切なさが生まれている。
 やはり、他に欠点がないだけに、「いくら全体の構成がよくても、探偵主観での論拠が弱いと活かしきれない」という感じは否めず、もったいなかった。その都度その都度「物証」を追い求めて泥臭くやっていくのは大事なんだな。

posted by 雉やす at 23:18| Comment(0) | 書評(ミステリー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年06月04日

外田警部、TGVに乗る/古野まほろ

外田警部、TGVに乗る
古野まほろ
光文社(2014)



"パリ=リヨン間を二時間弱で驀進する高速鉄道TGV。終着駅までの乗客は、サングラスの老人と二人の警察官、そして死者。永年勤続休暇を利用してパリを訪れた愛媛県警察部の外田保丞警部。知遇を得ているフランス国家警察のポンメルシー警視正とともにTGVでリヨンに向かうが、同じ車内で日本人外交官の射殺死体が発見され、なぜか捜査に巻き込まれることに。しかし、外田が追い詰めるべき犯人は、鉄壁のアリバイと日仏両国の法律に、幾重にも守られていた―。解らんかったら喋らせろ。証拠が無いなら作らせろ。「犯人をして自ら語らしめる」ために仕掛けられた、外田の逆トリックが冴え渡る!"

 シリーズ前作の「カシオペアに乗る」(http://goo.gl/9Y4chY)は短篇集だったが、今作は長編。
 倒叙型だが少々変則的で、犯人の行動にぴったりと寄り添うわけではなく、適度に謎を残している。読めばすぐに分かるのでばらしちゃうけど、「アリバイ崩し」と具体的な「症状」。
 今作の衒学はフランス鉄道の路線及び利用状況、フランスの日常生活、とりわけ休みの取り方における日本との違い、それに伴う不便さなど。いずれも事件と関連性が高く、無駄がない。TGVの特異性(パル=デュー駅でほとんどの乗客が降り、五分ほどの長い停車時間のあと、終点のペラーシュ駅到着までの間擬似密室が出来上がる)など事件に必要な要件は序盤で全ての説明を終えており、事件が起きてからの謎の焦点化や、外田が何を狙っているのかが分かりやすく、すらすらと読めるようになっている。
 いわばまさしく「遅刻も多いが出発すれば速い」TGVのような構成になっていて、おもしろい部分も犯人にチェックメイトをかけてから(パル=デュー到着)、全ての謎が解かれる(ペラージュ到着)までの短い部分に集約されているように思う。事件を解くだけではこぼれていくような衒学要素が、いかにして犯人に裁きを受けさせるかという第二の問題を解決するに当たって効いてくる。アリバイ崩しへのウェイトのかけ方も順当だし、いろいろと考えつくされた、完成度の高い倒叙ミステリーだと思う。

 ただまあ、外田警部が強キャラ過ぎて犯人との切った張ったのスリルという点ではいまいちかもしれない。寿司まで握れるのかこのたぬき……。

ラベル:古野まほろ
posted by 雉やす at 00:20| Comment(0) | 書評(ミステリー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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